X-pro1 + Zeiss Touit 12mm F2.8
この日曜は、先月に亡くなった友人の実家である福島へと向かい、お線香をあげて参りました。
専門学校時代の同期の仲間達11人が、偶然にもこの一日だけ予定が合い、懐かしい顔ぶれが10年ぶりに揃うこととなりまして、各々普段から滅多に時間の合わない業種であるにも関わらず、これだけの数が集まれたのは大変奇跡に等しいことでありました。
僕自身、ビッシリと予定の詰まったスケジュール表の中で、この日だけが”ぽっかり”と空いていたので、不思議なことも在るものだとつくづく思います。
日帰りで滞在時間も短いため、僕は仲間達との現地での待ち合わせよりも2時間ほど早く到着し、海岸へと足を運びました。
どうしても、僅かな部分だけでも、自分の眼で見てみたかったのです。
福島第一原発まではまだ距離がありますが、それでもマップで確認すれば眼と鼻の先です。
事前に調べてみますと、このあたりもだいぶ津波の被害が発生しており、これから何を目にし、どこまで自身の想いを捧げられるのか。
決して怖いもの見たさや、にわかな興味本位では無いにせよ、これを証明できるほどの感慨に至れるのか。
実に清々しく晴れ渡る青空の下で、そんな憂慮を胸に抱きつつ、大きな波の音を頼りに海岸を目指し歩きました。
X-pro1 + Zeiss Touit 12mm F2.8
民家脇の小道や田の畦道を縫うようにしてたどり着くと、そこには真新しい壁が在りました。
ここに来るまでに見た古い家屋や倉庫とは異なり、こうも白い壁が数キロに渡って続いている様子は、やはり奇妙な光景だと感じてしまいます。
その場で目を閉じてみると、心地よい風と波の音に加え、暖かなお日様の温もりが、ほんの束の間のリゾート気分に浸らせるのですが、目を開けるとそこには壁だけが広がり、先程までの感覚が瞬く間に”危機感”へと変わります。
X-pro1 + Zeiss Touit 12mm F2.8
壁の所々に設けられた階段を上がると、美しい太平洋が一直線に広がります。
本来ならばその”美しさ”を主題とし、思い思いにシャッターを落とすのでしょうが、この時ばかりはどうにも複雑な感情ばかり。
それでもやはり”綺麗”でありました。
亡くなった友人が見て育った海。
本当に美しかったです。
壁の前は空き地が多く、あまり人の姿は見られません。
ですが、その中に一カ所だけ綺麗なすべり台がポツンと在りました。
とても公園とは呼べない空間です。
途中、幼い子どもの手を引く家族の姿もありましたから、そうした子のために新設したのかとも思いました。
しかし近づいてよくよく見ると、裏側は随分と錆が出ています。
その時、今立っている場所が元は公園であったことを知りました。
見上げると目の前には避難警報用のスピーカーが建っていました。
待ち合わせ場所である隣駅までの道中、海から内陸へと伸びる河川敷にも大規模な整備が入っていました。
恐縮ながら余談でありますが、この日、初めはモノクロで撮り進めようと考えていました。ですが現地に到着してすぐ、辺りに目を向けると「違うよな」と感じベルビアへと設定を変えたのです。
青い空や木々がそう思わせた一端ではありますが、心のどこかで「美しく元気であれ」との祈りに似た想いが湧いたからです。
勝手なイメージを先行させて”モノクロ”にセットしていた自分を恥じました。
X-pro1 + Zeiss Touit 12mm F2.8
海から少し離れると、丁寧に手入れが行き届いた広大な田畑が現れます。
これもまた、本当に美しい景色と人の営みです。
このあと仲間と合流し、無事に亡き友へ手を合わせることができました。
少しでも僕らを笑わせようと、気さくに振る舞ってくれる『お父さん』の姿を見て、太陽のように明るかった彼女の性格が父親譲りであることも知れました。
なんとも嬉しかったです。
帰り際に、ふと生前に彼女が言っていた事を思い出しました。
「私は晴れ女だから!今日の撮影も大丈夫!雨なんか降んない降んない!」
これまでも天候の不安な撮影日の朝には、こんな風に断言してくれていたんです(笑)
「なるほどね、どおりで(笑)」
と、台風が北上する中での昼間の太陽と、帰りの駅のホームで右頬に照りつける強い夕日を感じて、すっかりと笑顔になれました。
そして本当に久しぶりに集まった仲間達が、一人一人前へと強く踏み進んでいることを互いに感じ合えた良き日となりました。
感謝、そしてさようなら。
またな!
オーゼキコーキ
『本日の一枚』