
現在制作中の日産自動車さんの映像作品は、8月初頭にクランクインしてついに編集段階へと入りました。
これは本作に登場する小道具にまつわるエピソード。
チラッと映る程度ですが、僕はこの最初期型のPENを小道具として登場させることを決めて様々なカメラ屋さんを探し回りました。
希少品という事もあり、そう簡単には巡り合え・・・と思いきや。
数軒目で棚に並んだジャンクカメラの奥に、そっぽ向いて置いてあるPENを発見!
手に取ってみると細かな特徴のすべてが一致する完全な最初期型のPENに出会えました。
ジャンク理由はというと、ファインダー内のガラス板が一枚外れて中でカラカラと音を鳴らしています。
他は異常が無さそうで外装も大変綺麗です。
ただし作品内ではファインダー越しの映像を撮る必要がありこれはよくありません。
ですが10年ほど前にフィルムPENの分解修理を趣味的にやっていたこともあり、自分で治すぞ!と、この初期PENをすぐに連れて帰りました。
早速夜中に分解修理開始です。
上部のカバーを外すと問題のあるファインダー部分もそれに付いたまま姿を現します。
ネジ山や内部を見ると過去に分解された形跡は一切なく1959年の製造当時の香りが漂って来そうです。
慎重にファインダーユニットを外して作業を進めようとしていたら、ふと違和感が。

ん?ん??
なんか、書いてある・・・
製造番号でもないし、パーツの種別記号かな??
よく見てみよう。

なんか・・・『M』って書いてある、いや傷付けて彫ってある。
いろんな角度から見てみようか。



うん、どう見ても『M』って書いてあるね。
M型ライカでもないのに『M』だなんて変だね。
OLYMPUSのPENだよ?
なんだよ『M』って。
必死にネット検索でPENの分解写真を探し回ったけど、こんな『M』の刻印のあるものはどこにも無いし、当然こうした刻印というか手書きで傷つけたイニシャルの話なんて微塵も出てこない。
やっぱり変ですよね、PENなのにMってね。
けど僕はこの謎の『M』の刻印に対して、どう考えてもひとつの答えしか思いつかないんですよ。
かなり様々な角度から考えましたけど、やっぱりただひとつの現実的な妄想にたどり着きます。
カメラに詳しい読者のあなた様、もうおわかりですか?
いやいや・・・
けど、そんなわけ・・・あるよね、ありそうだよね?
というかそれしか考えられなくない?
このPENの作者がイタズラ心からなのかどうかは知らんけど、製造ライン(当時は三光商事)にやってきて、「どれどれ」と手に取ったこの上部のカバー裏に自分のイニシャルを刻み込んだと考えるのが自然ですよね。
だって、これを作ったそのお方様は、後にファンからサインを求められた時の為に金属のカメラ本体へ刻み込むために、先が人工ダイヤになっているペンを胸に忍ばせていた逸話が残っていますよね?
故・米谷美久(まいたに よしひさ)様
天国からご覧になっておりますか?
なんの因果かわかりませんが、当時のあなたのイタズラ心は66年もの時を経て2025年の夏に、わたくしオーゼキコーキの手によって遂に発見されましたよ!!!
「いつか誰かがオーバーホールした時に見つかればいいな」
「このカメラがオーバーホールしながらでも永く愛されるものになればいいな」
勝手な想像ながら、そんな想いが過去から現代の僕の胸に直接飛び込んできました。
製造時の若き米谷さん、特大プレゼントをくださり心より感謝します。
実のところ今回の撮影は規模の大きさもあり、珍しく僕の中で不安がいっぱいでした。
「うまく行くかなぁ・・・」
「いい作品にできるかなぁ・・・」
かなりのプレッシャーで頭を抱える日々でしたが、小道具として選んだ1台のカメラからこの『M』の刻印を発見した時は目が覚める思いでした。
「仕事を苦労だと思っては成功しない。楽しみと思うことが大事」
生前にどこかでこう仰ったようですね。
僕はずっと撮影という仕事を楽しんで来ました。
そのはずなのに、どういうわけが今回は初めて言い表せない”苦労”や”不安”を感じてしまっていたんです。
本当に救われました。
お陰でこのPENを使った撮影日も最高のシーンを撮ることが叶い、今からしっかり編集を追い込んで仕上げていきます。
これは手放すことなく大切にする唯一無二のPENとなりましたね。
さて、OMDSさん、取材待ってますよ(笑)
オーゼキコーキ
↓このOLYMPUS PENが登場するシーンの撮影日、劇中車のサニトラと自分の12SRを並べて2ショット
